アブラメリン
アブラメリンは、14世紀のエジプトに住んでいた魔術師である。
聖守護天使を介したアブラメリン魔術の創始者として、同時代のユダヤ人魔術師アブラハムが残し、メイザースがパリのラルセナル図書館にて発見し、英訳した『魔術師アブラメリンの聖なる魔術』に伝えられている。原文は、アブラハムが自分の息子ラメクのために書き残したもとされており、翻訳本は、メイザースの序文と注釈が付け加えられた形になっている。
この書によれば、ドイツのマイエンスで魔術師の家系に生まれたアブラハムは、魔術師の父の下で幼少時より修行を始める。知識を求めてオーストリアやハンガリー、さらにはギリシャやイスタンブールに入り、続いてアラビア、パレスチナと旅する。最終的にはエジプトにたどりついて魔術師アブラメリンに出会う。
そこでアブラハムは、アブラメリンに弟子入りし、現代にまで伝わるアブラメリン魔術を授けられ、ヨーロッパに持ち帰った。その後魔術師としてのアブラハムの名声はヨーロッパ中に知れ渡り、イギリス王ヘンリー6世、神聖ロ−マ帝国皇帝ジギスムントなどの王侯貴族の前でその秘術を披露した。
アブラメリン魔術の特徴は、各人の聖守護天使と会話を交わし、聖守護天使の協力を得て悪魔を使役するという点にある。また、複雑な紋章(シジル)や魔法円、妙な薬草や動物の生贄などを用いず、文字を配置した単純な方形の魔法陣、銀の皿をのせた祭壇を使うのが特徴。
このアブラメリン魔術を実践しようとする者は、春文の日から秋文の日までの6ヶ月間、砂漠などの人跡未踏の場所で祈りと精進に邁進して自己を浄化する必要がある。この間、「肉食厳禁」、「太陽が昇ってる間は睡眠禁止」、「病気の治療以外の目的で出欠してはならない」、「薬物禁止」、「慈善や物乞いには快く応じること」、「1日に2時間は聖なる書物を読んですごさねばならない」と言った様々な戒律が課せられ、これを厳守しなければならない。
この期間が過ぎた後、銀の皿をのせた祭壇を用意する。そして思春期前の少年を連れてきて、彼を霊媒にして祈ると「聖守護天使」が現われ、銀の皿の上にメッセージを書くと言う。
自らの聖守護天使と会話できるようになると、まずその力を借りて悪魔を操るが、以後はそれぞれの悪魔との取り決めにより、目的に応じて作成した護符や魔方陣を示すだけで自分の意のままに悪魔を使役できるようになる。
前述の『魔術師アブラメリンの聖なる魔術』は、3部構成になっており、第1部では、アブラハムがアブラメリンに会い、叡智を授けられるまでの経緯が、第2部では、『アブラメリンの魔術』の準備段階からその習得までの方法、注意事項が、第3部では、悪魔に対して服従を誓わせる時に使用する数多くの図表が書かれている。